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【学会口頭発表】日本人大学生のe-Learning学習行動と自己調整学習の関係

佐々木 顕彦(武庫川女子大学)・ 竹内 理(関西大学) 
キーワード:リスニング, 授業外学習, MSLQ 

目次[非表示]

  1. 1. はじめに
  2. 2. 方法
  3. 3. 結果
  4. 4. 考察
  5. 5. 謝辞
  6. 6. 参考文献

1. はじめに

日本人英語学習者にとって、教室外での自律的学習が英語習得に大きな影響を与えることは明らかである。近年では、授業外英語学習を促進するために e-Learning コースウェアを導入し、それらの受講を単位認定の対象にする大学も増えているが、現実には、学習効果が高いと考えられる「学習習慣(コツコツ)」タイプよりも、「課題先延ばし」や「締め切り直前の駆け込み受講」タイプが多く、期待されるほどの効果が上がっていない(e.g., 合田他, 2013)。

e-Learning は、教室での一斉授業とは異なり、時間的・空間的制約が少ない分、学習者の都合に合わせた柔軟な学習行動が可能であるが、一方で、そういった学習には自己調整学習(Self-Regulated Learning)的スキルが必要と言われている。Zimmerman(1989)は、自己調整を「学習者がメタ認知、動機づけ、行動において自らの学習プロセスに積極的に関与する」(p. 329)ことと定義しているが、効果的に e-Learning をおこなう学習者は「メタ認知※」、「動機づけ」、「行動(i.e., 認知)」のどの側面で、効果的でない学習者と異なるのであろうか。

本研究は、授業外学習として e-Learning を受講する学生の学習行動を調べ、習慣的に受講する学習者が持つ自己調整方法を定量・定性の面から明らかにする。そして、これらを、著者らが現在検討中の e-Learning 受講ガイダンスプログラムに活用していくことを目的とする。

※メタ認知とは、自らの認知過程を俯瞰的にみること、あるいはその能力のことで、目標設定や計画、修正などの過程を含みます。


2. 方法

 (1) 参加者 
本研究は、西日本にある女子大学1年生計294名を対象とした。全員が大学の前期必修科目である「リスニング」を受講しており、その授業外学習として e-Learning 受講が義務づけられている。大学入学時に受験した CASEC のスコアは320-776と英語習熟度の差は大きいが、1年次後半に控えた米国留学に向けて英語学習の意欲は高く、前期授業開始時の調査では、留学までに伸ばしたいスキルとして「リスニング」を選んだ回答が多かった。 


(2) 教材 
使用したe-Learningコースウェアは、Reallyenglish 社の Practical English 7 (リスニング版)である。同社が提供する全125のリスニング用レッスンから、「スーパーマーケットで」、「ホストファミリーとの生活」といった留学先で役に立ちそうなトピック15レッスンが担当者によって選ばれ、易しいものから徐々に難易度が上がるように配列されている(TOEIC® L&R 225-780 レベル)。なお、学生は、一度合格したレッスンを何度でも復習することができる。 


(3) 手順 
1年生前期の履修登録完了後、「リスニング」授業で e-Learning ワークショップが開かれ、学生は Practical English 7 を各自のスマートフォンにダウンロードした。ワークショップでは、 Practical English 7 の使い方に関する教示に続き、自己調整の実態を探るために Motivated Strategies for Learning Questionnaire(MSLQ; Pintrich & De Groot, 1990)を日本語に訳したものを使ってデータが収集された(参加者には書面で同意を得た)。その後、学生は前期終了までの期間(15週)に上記の15レッスンを学習し、各レッスンの最後にある確認テストに合格した(15レッスン修了率 93%)。学期終了後、学習週数が10週以上で、メタ認知得点が 3.5を超える学生10名に半構造化インタビューをおこなった。 


(4) 分析 
学生の e-Learning 学習行動は Reallyenglish 社のサーバに記録されたログを利用し、「学習週数」、「学習レッスン数」、「各レッスン平均学習時間」の3つのデータを収集した。また、自己調整は、上記の MSLQ の結果から「内発的動機づけ」、「自己効力感」、「テスト不安」、「認知方略」、「メタ認知方略」の5つの因子得点を算出し(信頼性係数は全因子でα > .70)、これらとそれぞれの学習行動の相関を調べた。  


3. 結果

自己調整の各因子と学習行動の記述統計量を表1に示す。学習行動の最大値と最小値の差が大きいが、学習ログを精査したところ、これらの数値の高い学習者の多くは「学習習慣」タイプで、低い学習者はほとんどが「課題先延ばし」、「駆け込み受講」タイプであった。 



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自己調整の各因子得点と学習行動の相関を調べた結果(表2)、「学習週数」と「メタ認知方略」の間に弱いながらも正の相関が見られた(r = .24, df = 292, p < .01)。この結果から、定期的に e-Learning に取り組んでいた学生は、自らの学びに対してメタ認知的に関わっており、そこには「動機づけ」や「自己効力感」などはあまり関与していない可能性がうかがわれた。 

また、半構造化インタビューによると、効果的な学習をしていた学生は、「 e-Learning をする曜日と時間を決めていた」、「授業がある日に必ずやるようにしていた」など、学習を定期的に進めるために様々なメタ認知方略を用いていたことがわかった。 

e-Learning 受講者の中には「毎週コツコツ進めるのが効果的」とわかっていても、それを続けられない学生が少なくない。本研究の結果から、学習を習慣化できないのは、やる気(動機づけ)や自信(自己効力感)ではなく、学習を失念することなく計画的に遂行する計画性(メタ認知)の問題であると言えるかもしれない。


4. 考察

学生が定期的にコツコツと e-Learning を受講するには、メタ認知を利用して学習を習慣化することが重要と考えられる。そのためには、e-Learning を提供する側(コンテンツ配信社や教員)が、「学習が停滞している学生にリマインドを入れる」、「e-Learning コンテンツを授業内容に関連づける」など、学生のメタ認知利用をより一層促進するような工夫が必要であろう。


5. 謝辞

  (1) 本研究は科学研究費補助金(課題番号:18K00774)の支援を受けている。 

  (2) 本研究にご協力くださった Reallyenglish 社に心より感謝いたします。


6. 参考文献

合田美子・山田政寛・松田岳士・加藤浩・齋藤裕・宮川裕之 (2013).「e ラーニングにおける学習行動の分類」『日本教育工学会第 29 回全国大会論文集』867-868. 
   

Pintrich, P. & De Groot, V. (1990). Motivational and self-regulated learning components of classroom academic performance. Journal of Educational Psychology, 82, 33-40. 
   

Zimmerman, B. (1989). A social cognitive view of self-regulated academic learning. Journal of Educational Psychology, 81, 329-339. 
 
全国英語教育学会第45回弘前研究大会 発表予稿集から転載いたしました。 



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