【事例で学ぶ】グローバル人材育成の方法

【事例で学ぶ】グローバル人材育成の方法

2019.11.18

近年、しきりに「グローバル人材の育成」が叫ばれています。その「グローバル人材」とはどのような定義で、ビジネスの現場においてはどのような能力が備わっている人材なのかがいまひとつ掴めていないという方や、実際どのように人材育成を行うのが最も効率的で大きな成果を出せるのか、模索されている経営層や人事担当者の方も多いのではないでしょうか。そのような中、製造業A社はある英語研修を取り入れ、グローバル人材育成における語学力・コミュニケーション能力の部分を強化しました。

今回は、グローバル人材の定義やビジネスの場において必要な能力の解説のほか、成功事例を参考にグローバル人材育成の効率的な研修方法をご紹介します。

1.グローバル人材とは?なぜ求められるのか

近年、「グローバル人材」の早急な育成が求められていますが、どのような背景があるのでしょうか。またグローバル人材の定義についても確認しておきましょう。

 

グローバル人材が求められる背景

グローバル人材が求められる背景としては、「世界的な情勢」と「日本国内の状況」の2つが考えられます。

昨今、世界では急速にグローバル化が進展しており、世界的な競争が行われています。今後ますます日本に限らず、世界各国が国際社会に舞台を移していく必要がある時代に来ています。また日本国内では、少子高齢化による人口減少が進んでおり、経済も低迷し、より一層、海外に舞台を移す必要性に迫られている事情があります。

これらのことから、日本企業が国際社会で競争力を持って挑み続けるための人材の確保・教育は必要不可欠といえます。

グローバル人材の定義

グローバル人材と一口に言っても、様々な形で定義されています。以下、主な定義をご紹介します。

 

文部科学省

文部科学省の資料では、グローバル人材に求められる要素には「語学力のみならず、相互理解や価値創造力、社会貢献意識など、様々な要素が想定されている。」とあり、英語などの言語を巧みに使えるだけでなく、世界を舞台にするからこそ必要となるスキルや意識を備えていることが定義に含まれています。

 

出典:文部科学省「グローバル人材の育成について」

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/047/siryo/__icsFiles/afieldfile/2012/02/14/1316067_01.pdf

 

 

 

総務省

総務省の定義でも、グローバル人材とは、「日本人としてのアイデンティティーや日本の文化に対する深い理解を前提として、豊かな語学力・コミュニケーション能力、主体性・積極性、異文化理解の精神等を身に付けて様々な分野で活躍できる人材」としており、語学力だけではない部分を挙げています。

 

出典:総務省「グローバル人材育成の推進に関する政策評価<評価結果に基づく勧告>」平成29年7月14日

http://www.soumu.go.jp/main_content/000496468.pdf

 

 

グローバル人材育成推進会議

内閣官房長官を議長とし、外務大臣、文部科学大臣、厚生労働大臣、経済産業大臣及び国家戦略担当大臣を構成員とする「グローバル人材育成推進会議」によると、「グローバル人材」は次のような要素を持つとまとめられています。

 

要素I: 語学力・コミュニケーション能力

 

要素II: 主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感

 

要素III: 異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー

 

その他、幅広い教養と深い専門性、課題発見・解決能力、チームワークと(異質な者の集団をまとめる)リーダーシップ、公共性・倫理観、メディア・リテラシー等も挙げられています。

 

出典:グローバル人材育成推進会議 2012年(平成24年)6月4日 「グローバル人材育成戦略 (グローバル人材育成推進会議 審議まとめ)」

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/global/1206011matome.pdf

 

 

グローバル人材育成委員会

 さらに、経済産業省による「産学人材育成パートナーシップ グローバル人材育成委員会」の2010年度報告書では、グローバル人材の定義が次のように明記されています。

 

 「グローバル人材」に共通して求められるのは、通常の社会人に求められる①「社会人基礎力」に加え、②外国語でのコミュニケーション能力、③異文化理解・活用力にあるといいます。

 

図面

 

 

 

 以上をまとめると、グローバル人材の定義は、外国語でのコミュニケーションに必要な語学力はもちろん、社会人としての基礎力に加えて、幅広い教養と深い専門性、主体性、積極性、協調性、リーダーシップ、責任感などのハイレベルなスキル、そして異文化理解と日本人としてのアイデンティティーも併せ持った人材であるといえます。

2.ビジネスで活躍するグローバル人材とは

前述の定義を踏まえると、実際、ビジネスの現場で活躍するグローバル人材にはどのような能力が必要になってくるのでしょうか。重要といわれる次の4つの能力について、ビジネスで活躍するグローバル人材に求められる内容を解説します。

 

1. コミュニケーション能力

グローバルビジネスにおけるコミュニケーションには語学力、特に英語力が前提にあることは周知の事実です。しかしこの場合の英語力とは一般的な英語力ではなく、相手とビジネスをスムーズ、かつ有利に進めるためのコミュニケーションに必要なリスニング力とスピーキング力に重きが置かれた英語力を指します。そして一般的にビジネスに必要とされるコミュニケーション能力においても重要な、相手の考えを正確に理解し受け入れること、自分の意見をうまく主張できることも必要です。そしてバックグラウンドの異なる相手の理解を円滑に進めるためにも、異文化理解・活用力も必要不可欠といえます。

 

2. チームビルディング

グローバル社会において、自分のチームに外国人が加わるケースは珍しくありません。国籍、言語、文化が異なるチームメンバーが世界各国に点在することもあります。そのチームで自身が主要なメンバーとなった場合には、ビジネスで一般的に求められるチームビルディング力に加え、チームメンバーとの語学力を含めたコミュニケーション力、マネジメント力、異文化間で生じるギャップ調整力など幅広い能力が求められます。

 

3. 行動力

一般的にビジネスで求められる行動力は、グローバルビジネスにおいては、より重要度が増します。日本国内であれば、これまで蓄積してきた情報をもとに「こう動けば、こう実現する」と想像しやすく、即行動に移せば成功することも多いですが、グローバルに市場を移せば、そううまくいくとは限りません。日本で通用していたことが通用しないことは少なくないためです。グローバル環境において、必要な情報を蓄積していくためにも、常にトライアンドエラーの精神を持つと共に、日本でのビジネス以上に積極的かつ、多くのPDCAサイクルを回すということが求められます。

 

4. リーダーシップ

従来の一般的なリーダーシップ力に加え、グローバル人材に求められるリーダーシップ力とは、環境が海外に拡大し、特にチームメンバーや取引先の文化的背景の多様化に伴い、必要となってくる能力全般です。例えば、複雑な市場や文化環境への理解・適合力、文化・言語・宗教などを超えて知識や情報をまとめ統率する柔軟なマネジメント能力、そして周囲からの情報を正確に受け取り行動に反映するための語学力・異文化理解力など、数多くの幅広い能力が求められます。

 

これらが、グローバル人材に求められる主要な能力となります。

3.製造業A社が実施したグローバル人材育成方法

こうした能力に秀でたグローバル人材を育成するには、企業は具体的にどのような研修を行う必要があるのでしょうか。製造業のA社で実施された「全社グローバル要員育成研修」を例に取り上げて効率的な研修方法をご紹介します。

 

●研修立ち上げの背景

A社が2011年度よりグローバル要員育成研修を開始した背景としては、中期経営計画で「(海外)売上の増加」と「グローバル人材育成の加速」を宣言していたものの、人事としてはグローバル人材が質と量ともに十分提供できてないこと、社員の意識が低いことなどがありました。

 

●人材育成方針

A社では、人材育成方針を「世界中の何処でも、誰とでも、職能資格に応じた仕事ができ、指定のグローバル人材必要条件を満たしている人。」とし、その必要条件の中でも「外国語スキル」の研修として、eラーニングを取り入れました。

 

●研修手法

具体的な研修手法としては、集合研修とeラーニングを併用した“ハイブリッド研修”で、eラーニングを効果的に活用しました。

英語は中長期的に学習するほうが効果的、という考えのもと、毎日少しずつ学習できるeラーニングを活用することに決め、その「管理者機能」を活用し、リアルタイムで受講者をフォローしました。

 

ハイブリッド研修の修了率、効果を上げるための工夫としては、集合「キックオフオリエンテーション」を開催し、会社・人事の考え(思い)、研修内容・効果的な学習方法について理解を深めました。

また、社内報で、学習者の声や受講結果などを発信し、受講者を増やす取り組みも実践しました。

4.まとめ

グローバル人材の定義には、さまざまなものがあります。そしてビジネスで活躍できるグローバル人材に求められる能力は多岐にわたり、より高度なものとなります。その能力の中でも重要な語学力・コミュニケーション力をより効率的に高めるためには、eラーニングと集合研修を併用したハイブリッド研修が一つの有効手段であるといえます。